器好きが選ぶ、特別な器たち③

インターネットで「器」を検索すると、店が買い付けたものや作家がアップした新作に簡単にアクセスできる時代です。ある女性は、ネットで器を見つけたり、ふらりと店に立ち寄って出会うことが多いそうです。そんなとき、彼女は器に対して非常に感覚的な反応を示します。「素敵な器を目にすると、まず『触れてみたい』という衝動に駆られます」と彼女はいいます。もともと作家や器の種類、物の来歴について詳しくなかった彼女ですが、とある職人が作った美しいお菓子に触れることで、その感覚が大きく変わりました。その職人の素材の取り合わせ方や食感、色彩感覚、そして器選びなど、すべてが見事に調和していることに感動し、彼女はその感覚を求めて頻繁に通うようになりました。この経験を通じて、現代の作家にも興味を持つようになったといいます。

彼女が以前から好きだったのは、古伊万里です。「白い土で成形された素地に絵付け師が藍色の顔料で描く図柄や文様には、一言では言い表せない独特な色彩感覚と繊細さがあり、日本ならではの美を感じます」と彼女はいいます。同じ図柄を描いたものでも、一つひとつ表情が違うところが味わい深いと感じているそうです。絵やイラストを鑑賞するときのように、「これはどんな人が描いたのかな？」と想像するのも楽しみのひとつだといいます。古伊万里にも、自分の好きな重さや手触りがあり、頭で考えるのではなく、器そのものが放っているバイブスを心と体で感じるのだそうです。彼女は、時間があるときにお菓子を作り、穏やかなひとときを過ごしながら、器との静かな対話を楽しんでいます。

日本で初めて磁器が作られたのは佐賀県有田です。17世紀初頭から有田を中心に生産された古伊万里は、その美しさと歴史に惹かれ、多くの人々に愛されています。上質な白磁をキャンバスに、青藍色の顔料で絵付けされた図柄や文様の手仕事には特別な魅力があります。古伊万里の器は、一つひとつが異なる表情を持ち、その独特な美しさを楽しむことができます。

ほのかにベリーが香る紅茶が、小さなカップに入れられ白樺のトレーに美しく並べられていました。この器の持ち主は、北欧雑貨の店を営み、20年以上にわたり北欧に通い続けている女性です。彼女の愛用する器の多くは北欧製で、「スウェーデンでは“フィーカ”というお茶の時間が何度も設けられているんです」と語ります。忙しい日々の中でもお茶の時間を大切にする彼女は、「熱々の飲み物を楽しみたいし、お客様にもそうしてほしいので、カップやポットは小ぶりなものを選びます。コーヒーや紅茶、中国茶など、飲み物に合わせた器を選ぶのも楽しみの一つです」と話します。彼女のコーヒー用の定番は、古いデザインのポットとカップです。

北欧の器は、美しいフォルムと素材感が魅力です。シンプルなデザインでも、少し黄がかったアイボリー色が温かみを感じさせます。北欧は冬が長いので、こうした温かみのある色が暮らしに馴染むのでしょう。毎日使う器だからこそ、飽きがこないことも重要です。北欧の人々は物を大切にし、古くなったものは修理して使い続け、新しいものを簡単に捨てることはしません。リサイクルショップでは、半世紀以上前の名品が美しい状態で売られていることもあり、北欧の人々のつつましく賢い暮らしが垣間見えます。シンプルで使いやすく、日常に溶け込む器は、流行に左右されず、いつの時代も人々の生活に寄り添います。真の美しさは、日々の生活の中から生まれるのです。

ファッションや美容、フードなど幅広い分野でブランドや店舗のディレクションを行うある女性。彼女の仕事は上質なものに触れる機会が多いですが、常に心掛けているのは「本質を知る」ことです。彼女の器に対する姿勢も同様で、祖母が器好きだった影響で、幼少期から「綺麗な器に盛ると気持ちが良い」という感覚を持っていたそうです。「20代は洋食器に惹かれていましたが、30代になると和食器の魅力に引き込まれました。そのきっかけは茶道でした。器の佇まいを見て、手で触れて質感を楽しむことが次第に私の心を捉えました」と彼女は語ります。

彼女は、「器を手に持って食べるのは日本独特の文化だな」と感じています。意識し始めると、この質感をどうやって出したのか、どんな場所でどんな人が作っているのか、どんどん知りたくなったそうです。それ以来、東京の器店で気に入った器でも、展示会に足を運び作り手と話をするようになったとのことです。また、地方の窯にも訪れ、器が生まれた土地の風土を感じ、作り手の話に耳を傾けることで器の表情や手触りが生き生きとしてきます。

京都の作家が手掛けた石のプレートに初めて触れたとき、そのワイルドな佇まいに使い方を戸惑いました。作家本人と話す機会があり、「おにぎりなどが良い」と教えてもらったことで、実際に使ってみるとその素晴らしさに驚いたそうです。「作り手に触れることで器の魅力が増すことは多々あります」と彼女は語ります。雑誌の記事や器店で気になった器を手帳にメモし、いつか窯に足を運びたいと思っているとのことです。「東京には何でもあると思いがちですが、実際には全国各地で生まれたものが集まっているだけです。そこをなおざりにすると、いつか東京には何もなくなってしまう。本当に良いものがどう生まれるのか、私はそこを見たいんです」と彼女は述べています。

器が持つ美しさや機能性は、料理を引き立てるだけでなく、毎日の食事をより楽しいものにします。器に込められた物語や職人の技に触れることで、食卓に新たな彩りが生まれます。特に、古伊万里の繊細な絵付けや北欧のシンプルなデザインは、料理を美しく引き立て、日常のひとときを特別なものに変えます。自分だけの特別な器を見つけることで、毎日の食事が心温まる時間へと変わるでしょう。器がもたらす豊かさを、ぜひあなたの日常にも取り入れてみてください。